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摩訶般若波羅蜜経巻第二

後秦亀茲国三蔵鳩摩羅什訳

往生品第四

一、ブッダ、諸々の菩薩の来生と往生の因縁を説く

舍利弗白佛言。
世尊。菩薩摩訶薩行般若波羅蜜。能如是習相應者。從何處終來生此間。從此間終當生何處。
舎利弗が仏に申し上げた。
「世尊。菩薩摩訶薩
(ボーディサットヴァ:覚りを求める衆生+マハーサットヴァ:偉大な衆生)般若波羅蜜(プラジニャー:智慧+パーラミター:到彼岸、智慧の超越)を行じ、このように相応に習うことができるということは、何処で終わってこの世間に来生し、またこの世間で終わったのち何処に生まれるのでしょうか」
佛告舍利弗。
是菩薩摩訶薩行般若波羅蜜能如是習相應者。
或從他方佛國。來生此間。
或從兜率天上來生此間。
或從人道中來生此間。
仏は舎利弗に次のように説いた。
「この菩薩摩訶薩、般若波羅蜜を行じ、このように相応に習うことができる者は、
あるものは他方の仏のいる世界からこの世間に来生し、
あるものは兜率天
(トゥシタ:上足・喜足・知足、欲界の第四天)上からこの世間に来生し、
あるものは人間世界の中からこの世間に来生したのである。
舍利弗。從他方佛國來者。疾與般若波羅蜜相應。與般若波羅蜜相應故。捨身來生此間。諸深妙法皆現在前。
後還與般若波羅蜜相應。在所生處常値諸佛。
舎利弗、他方の仏のいる世界から来る者は、速やかに般若波羅蜜と相応し、般若波羅蜜と相応するから、身体を捨ててこの世間に来生し、諸々の深妙の法すべてを目の当たりにする。
その後ふたたび般若波羅蜜と相応し、生まれ変わる処で常に諸々の仏に出会うのである。
舍利弗。有一生補處菩薩。兜率天上終來生是間。
是菩薩不失六波羅蜜。隨所生處。一切陀羅尼門諸三昧門。疾現在前。
舎利弗、ある菩薩はあと一生で仏滅後を補う処におり、兜率天上に終わりこの世間に来生するであろう。
この菩薩は六波羅蜜を失わず、生まれ変わる処の状況に随って、一切の陀羅尼
(ダーラニー:真理を護持する力)門・諸々の三昧(サマーディー:心を集中して諸事を正しく見る力)門を、速やかに目の当たりにするであろう。
舍利弗。有菩薩人中命終還生人中者。除阿惟越致。
是菩薩根鈍不能疾與般若波羅蜜相應。諸陀羅尼門諸三昧門。不能疾現在前。
舎利弗、ある菩薩は人間世界の中で命を終え、再び人間世界の中に生まれるが、阿惟越致(アヴァィヴァルティ:菩薩の不退転の位)にいるものを除く。
この菩薩の根は鈍なので、速やかに般若波羅蜜と相応することはできず、諸々の陀羅尼門・諸々の三昧門を、速やかに目の当たりにすることはできないのである。
舍利弗。汝所問菩薩摩訶薩。與般若波羅蜜相應。從此間終當生何處者。 舎利弗、汝の問うている菩薩摩訶薩は、般若波羅蜜と相応し、この世間で終わり、まさに何処に生まれるのであろうか。
舍利弗。此菩薩摩訶薩。從一佛國至一佛國。常値諸佛終不離諸佛。 舎利弗、この菩薩摩訶薩は、ある仏のいる世界から別の仏のいる世界へと至り、常に諸々の仏に出会い、ついに諸々の仏から離れないであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩不以方便入初禪乃至第四禪。亦行六波羅蜜。
是菩薩摩訶薩得禪故生長壽天。隨彼壽終來生是間。得
SAT版有「。」)人身値遇諸佛。
是菩薩諸根不利。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、方便(衆生引導の仮の手段)を用いないで初禅〈天〉から第四禅〈天〉(色界:物質的執着のある世界)に入り、また六波羅蜜を行ずる。
この菩薩摩訶薩は禅を得るから長寿天
(仏に会えない八難処の一)に生まれかわり、そこでの寿命が終わってからこの世間に来生し、人の身体を得て諸々の仏に出会うであろう。
この菩薩の諸々の根は鋭利とはいえない。
舍利弗。有菩薩摩訶薩入初禪乃至第四禪。亦行般若波羅蜜。不以方便故捨諸禪生欲界。
是菩薩諸根亦鈍。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、初禅〈天〉から第四禅〈天〉に入り、また般若波羅蜜を行ずるが、方便を用いないために諸々の禅〈天〉を捨てて欲界に生まれかわることになるであろう。
この菩薩の諸々の根は、また鈍なのである。
舍利弗。有菩薩摩訶薩。
入初禪乃至第四禪。
入慈心乃至捨。
空處乃至非有想非無想處。
修四念處乃至八聖道分。行佛十力乃至大慈大悲。
是菩薩用方便力不隨禪生。不隨無量心生。不隨四無色定生。在所有佛處於中生。常不離般若波羅蜜行。
如是菩薩賢劫中當得阿耨多羅三藐三菩提。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、初禅〈天〉から第四禅〈天〉に入り、
慈心から捨
(慈・悲・喜・捨:四つの限りのない心)に入り、
虚空処から非有想非無想処
(無色界:物質的執着から解脱した世界)に入り、
四つの観行
(身念処・受念処・心念処・法念処)から八つの正しい道
(三十七道品:覚りのための三十七の徳目)を修し、仏のもつ十の力から大慈大悲を行ずる。
この菩薩は方便力を用い、禅〈天の果〉に随って生まれず、限りのない心〈の果〉に随って生まれず、四つの物質的存在の無いことの瞑想
(空無辺処・識無辺処・無所有処・非想非非想処)〈の果〉に随って生まれず、あらゆる仏のいる処に生まれかわり、常に般若波羅蜜行を離れない。
この菩薩は賢れる
(千人ものブッダの存在する)現世の中にまさに阿耨多羅三藐三菩提(アヌッタラサムャクサンボーディ、最上にして普遍的の覚り)を得るであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩
入初禪乃至第四禪。
入慈心乃至捨。
空處乃至非有想非無想處。
以方便力故。不隨禪生
還生欲界。若
利大姓婆羅門大姓居士大家生(生字誤記ならん)。爲成就生故。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、
初禅〈天〉から第四禅〈天〉の行に入り、
慈心から捨に入り、虚空処から非有想非無想処に入る。
方便力を使うことによるから禅〈天の果〉に随って生まれることはなく、
反対に欲界、もしくは刹利の家系・婆羅門の家系・在家信徒の大家に生まれ、
衆生を成就するであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩
入初禪乃至第四禪。
入慈心乃至捨
空處乃至非有想非無想處。
以方便力故。不隨禪生
或生四天王天處。
或生三十三天。夜摩天兜率陀天化樂天他化自在天。
於是中成就生亦淨佛土。常値諸佛。

舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、
初禅〈天〉から第四禅〈天〉に入り、
慈心から捨に入り、
虚空処から非有想非無想処に入る。
方便力を使うことによるから、禅〈天の果〉に随って生まれることはなく、
あるいは四天王天処に生まれ、
あるいは三十三天、夜摩天・兜率陀天・化楽天・他化自在天
>(六欲天)に生まれ、
この中で衆生を救い上げ、また仏土を浄め、常に諸々の仏に出会うであろう。

舍利弗。有菩薩摩訶薩行般若波羅蜜。
以方便力故入初禪。
此間命終生梵天處作大梵王。
從梵天處遊一佛國。
至一佛國。
在所有諸佛得阿耨多羅三藐三菩提。未轉法輪者勸請令轉。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、般若波羅蜜を行じ、
方便力を使うことによるから初禅〈天〉に入り、
この世間で命を終えて、梵天処に生まれ大梵王となり、
梵天処からある仏のいる世界に遊び、
ある仏のいる世界に至るのである。
あらゆる諸々の仏が阿耨多羅三藐三菩提を得て、未だ法輪を転じない者に対しては勧請して転じさせるであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩一生補處行般若波羅蜜。
以方便力故入初禪乃至第四禪。
入慈心乃至捨。
空處乃至非有想非無想處。修四念處乃至八聖道分。
入空三昧無相無作三昧。 不隨禪生。生有佛處修梵行。
若生兜率天上隨其壽終。具足善根不失正念。
與無數百千億萬(百千萬億ならん)諸天。圍繞恭敬來生此間。得阿耨多羅三藐三菩提。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、〈仏滅後を〉補う所にあって般若波羅蜜を行じ、
方便力を使うことによるから初禅〈天〉から第四禅〈天〉に入り、
慈心から捨に入り、
虚空処から非有想非無想処に入り、四つの観行から八つの正しい道を修し、
空三昧・無相・無作三昧
(三三昧)に入り、禅〈天の果〉に随って生まれず、仏のいる処に生まれ断欲を修行し、
もしくは兜率天上に生まれ、その寿命に随って終わり、善根を具足し正しい考えを失わない。
無数の百・千・万・億
(億=十万)の諸々の天王が周りを取り囲み、恭敬し、この世界に来生し、阿耨多羅三藐三菩提を得たことを自覚するであろう。
復次舍利弗。有菩薩摩訶薩得六神通。
不生欲界色界無色界。從一佛國至一
SAT版無一字)佛國。
供養恭敬尊重讚歎諸佛。
また次に舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、六神通を得て、
欲界・色界・無色界
(三界)に生まれず、ある仏のいる世界からある仏のいる世界へと至り、
諸々の仏を供養・恭敬・尊重・讚歎するであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩遊戲神通。
從一佛國至一佛國。所至到處無有聲聞辟支佛乘。乃至無二
SAT版無二字)乘之名。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、神通に遊戯し、
ある仏のいる世界からある仏のいる世界に至り、到達するところすべてに声聞・辟支仏乗のあることもなく、さらにこれら二乗という名までもないのである。
舍利弗。有菩薩摩訶薩遊戲神通。
從一
SAT版無一字)佛國至一佛國。所至到處其壽無量。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、神通に遊戯し、
ある仏のいる世界からある仏のいる世界に至り、到達するところすべてにおいて、その寿命は無量である。
舍利弗。有菩薩摩訶薩遊戲神通。
從一國土至一國土。所至到處有無佛法僧處。讚佛法僧功コ。
生用聞佛名法名僧名故。於此命終生諸佛前。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、神通に遊戯し、
ある仏のいる世界からある仏のいる世界に至り、到達するところすべてに、仏・仏の教え・教団
(三宝)のない処があるならば、仏・仏の教え・教団の功コを讚ずるであろう。
諸々の衆生は仏の名・仏の教えの名・教団の名を聞くことによって、この世の命を終えたのち、諸々の仏の前に生まれるであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩初發意時
得初禪乃至第四禪。
得四無量心。
得四無色定。
(得ならん)四念處乃至十八不共法。
是菩薩不生欲界色界無色界中。常生有益生之處。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、最初に覚りへ発意したとき、
初禅〈天〉乃至第四禅〈天〉の境地を得、
四つの限りのない心を得、
四つの物質的存在の無いことの瞑想を得、
四つの観行から十八の〈仏以外には〉具わらない事物を得る。
この菩薩は欲界・色界・無色界中に生まれず、常に衆生を益することのある処に生まれるであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩初發意時行六波羅蜜。
上菩薩位得阿惟越致地。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、最初に覚りへ発意したとき 六波羅蜜を行じ、
菩薩の位に上り阿惟越致の境地を得るであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩初發意時。
便得阿耨多羅三藐三菩提轉法輪。
與無量阿僧祇生作益厚。已入無餘涅槃。
是佛般涅槃後。餘法若住一劫若減一劫。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、最初に覚りへ発意したとき、
そのまま阿耨多羅三藐三菩提を得て法輪を転じ、
無量阿僧祇の衆生を厚く益し、そののちさらに余すもののない涅槃(すべての精神的かつ肉体的な解脱の総合状態)に入る。
この仏の般涅槃の後に残る教えは、一劫のあいだ留まり、もしくは一劫を減ずるであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩初發意時與般若波羅蜜相應。
與無數百千億菩薩。從一佛國至一佛國。爲淨佛國土故。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、最初に覚りへ発意したとき、般若波羅蜜と相応し、
無数の百・千・億もの菩薩と、ある仏のいる世界からある仏のいる世界へと至り、仏のいる世界を浄めるであろう。
舍利弗。有菩薩摩訶薩行般若波羅蜜時。
得四禪四無量心。四無色定。遊戲其中入初禪。
從初禪起入滅盡定。
從滅盡定起乃至入四禪。
ならん)四禪起入滅盡定。
從滅盡定起入
空處。
空處起入滅盡定。
從滅盡定起乃至入非有想非無想處。
從非有想非無想處起入滅盡定。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、般若波羅蜜を行ずる時、
四つの禅・四つの限りのない心・四つの物質的存在の無いことの瞑想を得て、その中に遊戯し、初禅〈天〉に入り、
初禅から起って滅尽定
(煩悩を滅し尽くした瞑想)に入り、
滅尽定から起ってから四禅〈天〉に入り、
四禅〈天〉から起って滅尽定に入り、
滅尽定から起って虚空処に入り、
虚空処から起って滅尽定に入り、
滅尽定から起ってさらに非有想非無想処にまで入り、
非有想非無想処から起って滅尽定に入る。
如是舍利弗。菩薩摩訶薩行般若波羅蜜。以方便力故入超越定。 このように舎利弗、菩薩摩訶薩は般若波羅蜜を行じ、方便力を使うことによって超越定に入るのである。
舍利弗。有菩薩摩訶薩行般若波羅蜜時。
修四念處乃至十八不共法。
不取須陀洹果斯陀含果阿那含果阿羅漢果辟支佛道。
以方便力爲度生故。
起八聖道分。
以是八聖道分令得須陀洹果乃至辟支佛道。
舎利弗、ある菩薩摩訶薩は、般若波羅蜜を行ずる時、
四つの観行から十八の〈仏以外には〉具わらない事物を修し、
須陀
(スロータアーパンナ、小乗仏教修行の第一の階梯)の果・斯陀含(サクリダーガーミー、第二の階梯)の果・阿那含(アナーガーミー、第三の階梯)の果・阿羅漢(アルハン、小乗仏教修行者の最高位)の果・辟支仏道を取らず、
方便力を使うことによって衆生を救い上げることを為すから、
八つの正しい道を起こし、
この八つの正しい道によって須陀
果から辟支仏道を得させるのである」

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著作 アルキメデスの館