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『パラサイト・シングルの時代』にないもの

1.この本の弱点

 PHP社サイトの書評ページ(BOOK chase)における、新潟大学教授三浦淳氏(昭和27年9月生)の評『著者の説明は多方面に目配りがきいており、自由闊達かつ明快である。家族や社会を論じる人にありがちな、特定のイデオロギーに縛られるという弱点がないので、誰が読んでもうなずけること請け合いである。』(以下略)

とあるが、「特定のイデオロギーに縛られるという弱点がない」という点がまさに、この本の最大の弱点である。
 この本は非常に面白く、自分の子供の将来を思うとサスペンスさえ感じる。しかし、例えば142ページや166ページの社会・文化的な面での検討のあたりで、プロテスタンティズムに触れていたりして思わずこちらも身構えると、残念。言葉の上滑りに終わってしまい、要因分析は不発に終わる。
また、結婚は生活のゆとりを低下させるから若者が親から独立しない、という命題が掲げられているが、なぜ日本にこの傾向が強いのかということへの納得のいく説明はない。ある種のエトスのもとでは、生活水準の低下を差し置いて情緒的なメリットの方が選択されるが、この追究には宗教的な要素の検討が必須と思われる。
 しかし、山田昌弘氏はあっさりこれをパスする。マックス・ヴェーバーが社会的現象の解明をするとき、その社会の宗教の検討にいやというほど終始するのと対照的である。

 

2.宗教的な追究欠如の理由

 以下は、講釈師見てきたような式の憶測。(眉に唾をどうぞ)

 山田昌弘氏をはじめとする戦後ベビーブーム世代以降の社会学者や評論家たちは、傾向として宗教的な領域に対し無頓着なように感じられるが、その理由を検討する必要があると思う。
 縄文時代からこの国に連綿と続く「ご先祖様信仰」がポイントかもしれない。この流れは、奈良仏教が日本に入って来たため、あわや消滅という所で平安仏教に吸収され、鎌倉仏教以後は日本仏教のオハコとなり江戸時代末期まで続く。
 この「ご先祖様信仰」は、じつは日本人の親孝行などの徳目、倫理観をも支えてきたのではないだろうか。明治政府は知られているように廃仏毀釈をはかったが、いささか強引な天皇萬世一系論や教育勅語などで倫理観のバランスを取らざるを得なかった。ところが戦後になって、あっさり昭和天皇の「人間宣言」なんかで、一面でエトスの涵養に効能のあった精神原理を日本人の前から吹き飛ばしてしまった。
 それでも戦後間もない頃は、子は戦前生まれの祖父、祖母に仕切られた「家」で育ったため、多分に倫理観(宗教的な)は続いていたと思われるが、山田昌弘氏のいうように家族形態の変化により、「家」とともに宗教的なもの(物の怪の「もの」)もなくなったものと思われる。その結果、現代がどういう時代かは既知のとおり。

 

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著作 アルキメデスの館